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20年 あなたと歩いた時間

第1章 14歳

渡り廊下まで連れてこられた私と要は、
そう切り出した真緒の言葉を待った。

「倒産したんだって。流星んち」

前に流星から聞いたことがある。
流星のうちはおじいさんの代から続く
小さな造り酒屋だ。
その酒屋の経営が
うまく行かなくなったのは
去年で、流星も多分覚悟はしていたのだろう。
要はぽかんとして
渡り廊下から空を見上げている。
真緒が続けた。

「結構な負債、抱えちゃうみたい」

真緒はお父さんに聞いたその話を
とても悲しそうに打ち明けた。

「今日流星が自分から言うつもりだったかもしれないけど、なんかさっきの流星を見てたらさ…」
「流星んち、どうなるの」
「わかんない…倒産したらどうなるんだろ」

漠然と、今まで通り行かなくなるのは
わかっていた。
まだ中学二年の流星が
どうこうしなくちゃいけないとは
思わないけれど、流星の様子を見れば
何かが変わってしまうと
想像せざるを得ない。

「自己破産…するだろうから、負債はチャラになって人生リセットだよ。おまえら、借金取りが追っかけてくるとか一家心中するとか考えてんじゃねえのか」
「ち、違うの!?」

私と真緒が声を揃えて言うと、
要はバーカと言って笑った。
腕組みをし、口の端を少しあげて
私達を見下ろす要が、この時ばかりは
なぜか頼もしく見えた。

「おれんちも自営業だからさ、何となく知ってる。けど流星んちはそんなにばかでかい会社じゃねえし、大丈夫だよ。おじさんもおばさんも若いし、おれらが心配するようなことにはならねえよ」
「そっか」
「励ましてやろうぜ。ってか、何も言わねえ方がいいのかな?」

要がそう言って真緒を見た。
久しぶりに見る光景。

「流星から言ってくれるまで待とう?あんたは余計なこと言っちゃダメだよ」

そう言って真緒は背伸びして
要の頭をパコっと叩いた。
それが何だかおかしくて微笑ましくて、
私は思わず笑った。
そうか、この二人は思いあってるんだ。
こんなだけど、本当は…。

「おまえ…真緒!何だよ、そこ背伸びしてまで叩くとこかよ」
「さっきまで居眠りして調子に乗ってんじゃないよ」
「るせー。あー!飯食お、飯ー」

要は教室に向かって歩き出した。
すかさず後を追う真緒の、
切ったばかりの髪が揺れた。

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