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20年 あなたと歩いた時間

第1章 14歳

斜め前の席に座っている要は、
二時間目の国語の授業中からずっと
寝ている。

「要!ちょっと、いい加減起きなよ」
「…るさいな。ほっとけ」

私はシャープペンで
要の背中をつついて小声で言った。
別に居眠りしているのは要だけではないし
多分先生も諦めているのか、
無理矢理起こしたりはしない。
だけど夏休み、要も頑張って
勉強していたことを知っているから、
学校でも真面目に授業を
受けて欲しかった。
後ろを振り返ると、真緒は
「ほっときな」と口だけ動かした。
ふと、窓際の前から二番目を見ると、
流星は頬杖をついて窓の外を見ていた。
流星らしくない。

「では次の問題、男子の五番。小野塚。小野塚?」

流星が当てられた。
それなのにぼんやりしていた流星は、
二度呼ばれて気がつき、慌てて席を
立った。がたん、と椅子が鳴った。
その音で、要が起きた。

「あ…すみません、聞いてませんでした」
「なんだ、珍しいな。八十七ページの二番」
「八十七…」

教科書すら開けていなかった流星は、
慌ててページをめくった。
焦るなんて全然流星らしくなくて、
見ている私まで焦る。

「have been…です」
「正解」

流星は静かに席について、
また窓の外を見た。初めてだ。
授業中に上の空なんて。
それから私は流星が気になって、
何度も窓際の席を見ていた。
何を考えているのだろう。
チャイムが鳴り授業が終わって
ガヤガヤしたいつもの昼食時間になっても
流星は立ち上がらなかった。

「りゅうせ…」

その時、肩をつかまれて振り返ると
真緒と要が私をにらんでいた。

「のぞみ。流星の背中がほら、話しかけんなって言ってるよ」
「そっとしとこうぜ」
「でも…」

二人とも、さっきの流星が
いつもと違うことに気づいていた。
真緒が私と要を廊下に出るように
促した。
それでもやっぱり気になって、
振り返ってもう一度流星を見ると、
机に顔を伏せていた。

「あのさ、もう言っちゃうね。昨日お父さんに聞いたんだけど」


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