
20年 あなたと歩いた時間
第12章 君が生きた日々
そう言ったまま、なかなか言葉が出てこな
かった。口にすると、より現実味を帯びて
しまいそうで、怖かった。
「最近自分のことばっかで…のぞみのこと、後回しだった。今日誕生日だったから、びっくりさせようとマンションに行って下で待ってたらさ…」
そこまで話して、また肩が震えた。
「知らない男と…キスしてたんだ」
言葉にすると、気が狂いそうだった。
同じバイト仲間だろうか。顔は見えなかった。
でも何となく、年上に見えた。
「そうか…きっついな、それ」
「うん…きつい」
「のぞみちゃん、そんなタイプに見えへんけどな。見間違いちゃうん?」
「いや…でもおれ、高校んときもっとひどいことしたんだ」
「…ひどいこと、な…」
そうだ。もっとひどいこと。でものぞみは
許してくれた。
許してくれたかどうかわからないが、でも
いま、まだ僕といてくれる。
「とりあえず、寝て忘れ。な?」
「ん…ありがと」
圭介はおやすみ、と言って部屋を出た。時計は
12時を過ぎていた。もう、誕生日は終わった。
せめておめでとうくらい、言いたい。電
話を手にした僕は、迷わずのぞみの番号を
押した。
5コールして留守番電話に切り替わったが、
アナウンスの途中でのぞみは電話に出た。
『…もしもし』
「……」
『流星?』
「…うん。誕生日、おめでとう。過ぎたけど」
『…うそつき』
「え?」
『無理してくれるって言ったのに!今日誕生日だったのに!会いたかったのに』
「ごめん…ごめん、のぞみ。あのさ…今から行くから!」
『りゅ…』
途中で電話を切って、僕は下宿を飛び出した。
あんな場面に遭遇して確かにショックだった。
でも昨日僕が連絡していれば、のぞみはきっと
予定を入れたりしなかった。
客観的に見れば、他の男と過ごしたのぞみに
非があるかもしれない。
のぞみはそんな女の子じゃない。僕が一番よく
わかっている。
それよりも、本音を言ってくれたことが
うれしかった。
わがままを言ってくれたことがうれしかった。
