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20年 あなたと歩いた時間

第13章 そして

錚々たるメンバーだった。
十河正孝教授をはじめメディカルジャーナルで
見かける面々がずらりとならんでいたが、
実は、流星の遺志を継ぐ人間が集まっていた。

「震災後に、あの仮説が届いたときは鳥肌が立った」

そう言うのは、流星とおなじ下宿で寝食を共にした川嶋圭介准教授。

「流星にいつだったか、『松井はどんな大人になるんだ』って聞かれて、こんな大人もいいなと思った」

松井宏明特任教授は医学ではなくデータベースの
開発を行っている。

「小野塚くんのおかげで、私も医学部に入れたようなもんだから」

紺野香織首席研究員は他の機関からの助っ人
だが、なぜか一番僕に厳しい。
そして、学部生の西野ゆい。

「自分の耳を再生したくて」。

そして同じく学部生の僕。

「大切な人の命を守るために、最後まで絶対にあきらめたくない」

もう、流星の声は長い間聴こえてこない。
いま、どこで何をしてる?
まさか本当に成仏しちゃったんじゃないよな?
流星。
おまえがいたから僕がこの世に存在している。
愛する人に出会った。
あきらめないことを知った。
生きる目的を見つけた。
そして、人はその命を終えてもなお、誰かの
中で生き続けることを知った。

「コウキ、こないだのデータの…」

そう言いかけたゆいの唇をキスでふさいでから
小さく薄い耳に僕はささやいた。
ゆいは、また顔を真っ赤にした。

「何度も言われてるし、冗談ってわかってるのに、ひさしぶりに言われるとドキドキするね…」

開きかけていたタブレットを閉じて、ゆいは
笑った。

「なんで?僕は冗談なんて言った覚えはないよ」
「…そうなの?」

僕はもう一度ささやく。
ありきたりなその言葉を本気で。

「…結婚、しよう」

本当は、ひとつだったんだろ?おまえが
叶えたかった夢。

『のぞみちゃんは、ぼくのおよめさんになるんだよ』

流星。
それは、漆黒の闇を駆け抜ける一筋の光。
空を見上げなければ、出会うことのない
はるか遠い光。
ほんのわずかな時間だけ輝いて消滅する、
潔い光。
たくさんの逸話を持ち、人々はその一瞬に
願いを唱える。
君と歩いた時間は、不思議な出来事の連続
だった。
僕はそのたびに何度も空を見上げた。
そこにはいつも、漆黒の闇ではなく晴れた空が
あった。
見上げた真昼の空に星が流れた跡が見えた
気がした。

■Fin■

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