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20年 あなたと歩いた時間

第4章 18歳

そう言いおわらないうちに、
流星はグラウンドのほうに走り出した。
スピードをあげて、しなやかな細い体は
風に溶け込んでいく。
流星。流星。
頭の中も心の中も、
体中全部が流星でいっぱいになる。

「何してんの、流星」

真緒と要が戻ってきた。
真緒が、走る流星を見て不思議そうに
つぶやいた。
その問いに要が真面目に答えた。

「性欲発散だろ」
「ちょっと、要!のぞみ、気にしなくていいからね!バカナメ!」

呼吸をととのえながら、流星が戻ってきた。
汗が流れて髪の先が濡れている。

「発散できたか?ほとばしる青春の欲望を」
「いや、更に高まる欲望って感じ。おれら、先帰るわ。じゃあな」
「り、流星っ」
「おう、明日な」

流星は自転車に乗ると、後ろ、と
荷台を指差した。
走り出すと、初夏の乾いた風が、
背中まで伸びた髪を弄んで流れた。
この制服を着て、
流星の自転車に乗せてもらえるのは
あと何回だろう。ふとそんなことを思った。
アイス食べ損ねたからどっかで買ってこーな
と言いながら自転車をこぐ、
この瞬間の流星には
もう二度と会えないなんて。
初めてプールの横でキスをした時の流星にも
並んで夜景を見たクリスマスの流星にも、
もう二度と会えないなんて。
何気なく、もうすぐ十八歳になる流星と
公園のベンチに座っていたけど、
こんな時間こそもう戻ってこないのに。
もっと大切にしたい。
流星といるこの時間を、もっと。
私も、いまそう思ってるよ。

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