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20年 あなたと歩いた時間

第5章 20歳

「じゃあ、唐揚げと、豆腐サラダと、焼鳥盛り合わせ…四人前。それと…」
「あ、流星!こっち!」

真緒が気づいて声をかけた。
陸上部のTシャツ姿で、私達を探す流星が
見えた。
目が合うと笑ってからマスターに挨拶し、
テーブルに来た。

「走ってきたの?Tシャツ、陸上部の」

流星は私のとなりに座り、
重そうなバッグを床に置くと、
ふーっと息を吐いた。

「朝走って、今日一日これ。着替える暇なくてさ。…それより、元気だったか?」

おしぼりで手を拭きながら、
メニューに視線を移しつつ、
真緒と要に話しかける。流星はいつも、
例えば人と同じ時間を持っていても、
その人の三倍のことをしている。
せっかちではないけれど、
何でも要領よくこなすのだ。
一緒に暮らしはじめて気付いたことが
たくさんある。
実は、料理も簡単な裁縫もできるのだ。

「ん?真緒、もしかして…」
「うるさい!太ったわよ。ほんっとよく気がつくよね、洞察力すごすぎ」
「え、真緒、太ったの?わかんなかった!いつもかわいいから全っ然気づかなかった」

要がフォローなのか何なのか
わからない反応をした。
すぐに流星の前に置かれたグラスは
ウーロン茶だった。

「飲まないの?試験終わったんでしょ?」
「うん。まあ、何となく」
「じゃあ、全員揃ったところで!」
「かんぱーい!」

私達は、他愛もないそれぞれの大学生活を
報告しあい、ひとり地元に残った真緒からは
川辺っちが結婚したことを聞いた。

「結婚か」

そう言ったのは流星だった。

「いつかはするのかな、おれたちも」
「そりゃ、いつかはな。誰かと…」
「…考えられねえな、まだ」

流星は、ぱくっと豆腐を口に入れた。
私は、その言葉に胸がチクッとしたことに
気づきたくなかった。
何となく、嘘でもいいから、のぞみと、と
言ってほしかった。
でも、そんなことは言わない。
流星は自分に厳しい。
将来を語るのは、納得できる自分に
なってからなのだ。
そしてまた、何もなかったかのように
思い出話や、最近観た映画の話が
連綿と続いていった。
流星はいつもより口数が少なく、
ただ何となく他の三人の話に
耳を傾けている感じだった。
あっという間に三時間が過ぎた。

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