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20年 あなたと歩いた時間

第7章 命のはじまりと終わり

「懐かしい。流星の部屋」

高校を卒業するまで、流星が使っていた
実家の部屋は、最後に来たときと
何も変わっていなかった。
参考書や文庫本がたくさん詰まった本棚が
ベッドの隣にある。
がらんとした部屋の中で、一番ものがあるのが
本棚かもしれない。
一緒に住んで気づいたことだが、
流星は暇さえあれば本を読んでいる。
読書中に話しかけても、
返事がないことはしょっちゅうだ。
流星のベッドに腰掛けて
そんなことを考えていると、
流星が階段を上がってくる音が聞こえた。

「大丈夫か?」
「うん。大丈夫」

流星は両手にマグカップを持って
入ってきた。
今朝、二人で産婦人科に行った。

「結果がどうでも、おれは絶対にのぞみを傷つけない。だから絶対に不安になるな。のぞみは、ひとりじゃないからな」

妊婦さんが何人かいる待合室で、
明らかに目立つのに流星は私の手を
しっかり握って言った。
カーテンで仕切られた内診台に座ると、
不安で押し潰されそうになりながら、
私はひとり、永遠とも思われる長い時間を
過ごした。

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