
20年 あなたと歩いた時間
第7章 命のはじまりと終わり
胃の中には何もないのに、それでも身体が
何かを吐き出そうとしている。
内臓がひっくり返るような感覚。
突然の吐き気に、流星の腕に
つかまることしかできない。
「大丈夫か?駅のトイレまで、行けるか?」
返事もできないくらい、
トイレに向かって歩くのがやっとだった。
昼食を食べ損ねたので、
何も吐くものはなかったが、涙が出た。
「…のぞみ?大丈夫か?」
心配した流星が、トイレの外から
声を掛けた。個室から出ると、流星がいた。
まっすぐに、私の目を見ていた。
流星に手を引かれ、どうやってそのカフェまで
たどりついたのかわからない。
奥のソファ席に座らされ、
待っててと言い残して
流星はコーヒーを注文しに行った。
もしかして、もしかして…
可能性は否定できない。
私、毎日大学で何やってたの…
まだ二十歳なのに…
「はい。ディカフェだから」
「ディ…?」
顔を上げると、流星は笑って私の目の前に
マグカップを置いた。
「ノンカフェインのこと」
言わなくちゃ。流星に、ちゃんと…
「…のぞみ。おれ、医学生だよ」
「…?」
流星の言う意味がわからずに、
マグカップで手を温めていると、
流星は二人掛けのソファに座る私の隣に
移動してきた。
「だいたいわかった。のぞみの状況。明日、病院に行こう」
「…うん」
流星の落ち着きのある声が、
私の中にすとん、と入ってくる。
肩に回された手で引き寄せられると、
流星のぬくもりが伝わってきた。
「覚えてるよ。のぞみに、おれのお嫁さんになれって言ったこと」
「…そうなの?」
「そのために今、頑張ってんだろ」
流星は照れ隠しにコーヒーを飲んだ。
「同窓会、行けないって言ってくる。ここで待ってて。一緒に帰ろう」
流星はダウンジャケットを掴んで店を出た。
ひとり、ソファに座ってマグカップを見つめた。
ノンカフェイン…
流星…。
流星は、本当に私に赤ちゃんが出来ていたら
産んでほしい?
たった一杯のコーヒーに、深い意味はないと
わかっていても、その優しさが心にしみた。
信号待ちをしている流星が窓から見える。
私、その背中にすごく重いものを
背負わせてしまうかもしれないよ?
流星。
あなたで良かった。
この先どんなに辛いことが待っていても、
頑張れる。
でも、それは流星が側にいてくれると
思っていたから…。
何かを吐き出そうとしている。
内臓がひっくり返るような感覚。
突然の吐き気に、流星の腕に
つかまることしかできない。
「大丈夫か?駅のトイレまで、行けるか?」
返事もできないくらい、
トイレに向かって歩くのがやっとだった。
昼食を食べ損ねたので、
何も吐くものはなかったが、涙が出た。
「…のぞみ?大丈夫か?」
心配した流星が、トイレの外から
声を掛けた。個室から出ると、流星がいた。
まっすぐに、私の目を見ていた。
流星に手を引かれ、どうやってそのカフェまで
たどりついたのかわからない。
奥のソファ席に座らされ、
待っててと言い残して
流星はコーヒーを注文しに行った。
もしかして、もしかして…
可能性は否定できない。
私、毎日大学で何やってたの…
まだ二十歳なのに…
「はい。ディカフェだから」
「ディ…?」
顔を上げると、流星は笑って私の目の前に
マグカップを置いた。
「ノンカフェインのこと」
言わなくちゃ。流星に、ちゃんと…
「…のぞみ。おれ、医学生だよ」
「…?」
流星の言う意味がわからずに、
マグカップで手を温めていると、
流星は二人掛けのソファに座る私の隣に
移動してきた。
「だいたいわかった。のぞみの状況。明日、病院に行こう」
「…うん」
流星の落ち着きのある声が、
私の中にすとん、と入ってくる。
肩に回された手で引き寄せられると、
流星のぬくもりが伝わってきた。
「覚えてるよ。のぞみに、おれのお嫁さんになれって言ったこと」
「…そうなの?」
「そのために今、頑張ってんだろ」
流星は照れ隠しにコーヒーを飲んだ。
「同窓会、行けないって言ってくる。ここで待ってて。一緒に帰ろう」
流星はダウンジャケットを掴んで店を出た。
ひとり、ソファに座ってマグカップを見つめた。
ノンカフェイン…
流星…。
流星は、本当に私に赤ちゃんが出来ていたら
産んでほしい?
たった一杯のコーヒーに、深い意味はないと
わかっていても、その優しさが心にしみた。
信号待ちをしている流星が窓から見える。
私、その背中にすごく重いものを
背負わせてしまうかもしれないよ?
流星。
あなたで良かった。
この先どんなに辛いことが待っていても、
頑張れる。
でも、それは流星が側にいてくれると
思っていたから…。
