誘惑のサンタクロース
第1章 ☆
「じゃあ、おれ帰るね
君も早く帰りなさいね」
そう言うとベンチから立ち上がった。
体の右側が少しだけ
寒くなったように感じた。
まだ帰れない。
今帰ったらまだ喧嘩してるかもしれないから。
「うん。お兄さんさよなら」
少しの時間だったけれど
楽しかった。
これからはいつも見ているあの星座も
少し違って見えるかもしれない。
すると彼は黒いマフラーをはずし、
わたしの首に巻いてくれた。
「あの、」
「今度もし会ったら返してくれればいいから。
じゃあね、黒ちゃん」
黒ちゃん?
わたしが黒髪で黒いコートだから?
小さく手を振って、
彼はゆっくりと歩いていってしまった。