春雪 ~キミと出逢った季節 ~
第9章 その時が来るまで
「ちょっと早乙女くん。
私の有難~い話、聞いてるのかしら?」
「蓮見さんって今どこにいるの?」
「え?」
俺が聞き返したので、竹中さんは話をやめて研究室のホワイトボードへ振り返る。
「パソコン室からまだ戻ってないんじゃないかしら」
「3階の?」
「ええ。 5限まで中休みなはずだから……って、こら!
待ちなさ……」
待てません。
時間が無いんだ。
最後まで聞かずにその場を後にして、階段を上がって廊下を進む。
……春ちゃんが大学にいるのはあと少しだから、出来るだけ距離を縮めておきたい。
7年も片想いしている心を、短期間で振り向かせるなんて無謀だろうけど
“ 奥さんがいるのは、知ってるの ”
“ バカだよね。
どんなに強く想っても、願っても……叶うはず無いのに ”
……春ちゃん
どんなことでも
“ 絶対 ” なんてものは存在しないんだよ。
パソコン室の扉に手をかけて、前に進むしかない足を踏み出した。