春雪 ~キミと出逢った季節 ~
第10章 目撃
………み、やもとさん?
「…… “ あいつ ” って……」
「…………」
「どなたの……ことですか?」
目が離せなくて、半ば放心したまま聞いたけど
信号が青に変わって、後ろからクラクションが鳴らされて
「……いい、忘れて」
宮本さんは再び視線を前に戻して、アクセルを踏むと
そのまま、一言も話さなくなってしまった。
……傍に、いるだけでいい……
私にしか、できないこと……?
考えても分からなくて、私も窓の外を見たまま黙っていて
それから暫くして、目的地であるコンクリート壁の建物が見えてきた。
「すみません、ありがとうございます」
入口の前まで車をつけてくれた宮本さん。
シートベルトを外しながら、お礼を言うと
「悪いな、帰りは歩きだ」
「いえいえ!
乗せていただいて楽チンでした♪」
「アポイント何時?」
「あ、まだあと20分もあります。
でも大丈夫です、入口の前で待ってます」
いつもの様子に戻った彼に、もう一度お礼を言おうとした……
その時だった。
「……あ、れ?」