春雪 ~キミと出逢った季節 ~
第10章 目撃
顔を上げて、フロントガラス越しに見える事務所の入口。
扉を開いて、足早に出てきた男性が目に止まった。
目深く帽子をかぶっていて、ラフな服装。
設計図などを入れる、筒状の図面ケースを肩にかけている。
「おい、どうした?」
私の視線を追って、宮本さんも前方に目を向けた。
駅の方向に向かうその後ろ姿は、どんどん小さくなっていくけど
あれは……
「……芹澤さん」
「は?」
「あの人、芹澤さんですよ……ね?」
「………!」
私の言葉で、眉間に皺を寄せて目を細める宮本さん。
だけど、その人は曲がり角の先に消えてしまった。
「ぜんっぜん分かんねぇ。
本当に芹澤か?」
「違うの……かな。
でも、顔と体型がすごく似てたような」
「こんな一瞬でよく見えたな」
「私、視力2.0あるんです」
「……マジか」