春雪 ~キミと出逢った季節 ~
第11章 どうしようもなく、惹かれる心
………爽やかで、優しくて穏やかな人。
遼くんや宮本さんと、性格や見た目は間逆だけど
退職されるまで話す機会はほとんど無かったものの、彼のイメージはとても良かった。
手掛ける店舗の内装や、ショーウィンドウのディスプレイはとても素敵だったし
……だから
「……っ 痛……!」
今私の腕を引っ張って、建物の影へと引きずるこの人が
あの芹澤さんだなんて、到底信じられない。
「は、離してください…っ」
「………」
「てゆーか、携帯返してくれませんか!?」
掴んだ手とは反対側に、私の携帯を握ったままの芹澤さん。
○○木工と隣りのビルの、狭い隙間へと連れ込まれて
必死で逃れようとするけどビクともしない。
「これを返したら、君は会社に電話するだろ?」
「~~あ、当たり前じゃないですか!」
「じゃあ、返さない」
芹澤さんはニコッと笑うと、体勢を屈めて
地面の下に埋め込まれたU型水路の、その隙間に携帯を落とした。
ポチャンと、無残な音が響く。
「………!!」
~~~き、機種変更したばかりだったのに!
そこまでする……!?