春雪 ~キミと出逢った季節 ~
第11章 どうしようもなく、惹かれる心
「宮本は鼻が利くし、色々面倒だから
最初から加賀谷一本に絞って狙ってた」
「………!」
「企画部フォルダのパスワード。
資料を貰うフリして、後ろから見てたからすぐに覚えたよ」
……店舗開発部の芹澤さんは、現場の夜間作業に立ち会うこともあるから
いつでも社内に出入りできるように、フロアのセキュリティカードを持っていた。
早朝や深夜、社員がいない時間に企画部のパソコンを開くことなんて簡単だ。
………ひどい。
どうしてそんなことができるの?
「……抜き出したファイルを、どうされたんですか?」
「加賀谷のやつだけ、自分のデザインとして売込みに使ったよ」
「………!!」
「まぁ、俺の専門は設計だけど。
転職した会社が、えらくあのソファを気に入っちゃってさ。
満場一致で製品化に向けて動き出した」
「………っ」
芹澤さんの顔が近付いてくる。
私の額に、帽子のツバが当たった。
「登録商品として世に出てしまえば、誰が何を言っても遅い。
……残念だったね」