春雪 ~キミと出逢った季節 ~
第11章 どうしようもなく、惹かれる心
地面を見つめていた遼くんは
少しだけ沈黙してから、ゆっくりと顔を上げた。
「……ごめんな、春菜」
「………!」
「怖い思いさせて、悪かった」
「………っ」
「昔はもっと早く走れたんだけど。
……俺も歳だな」
……遼くんの、低くて落ち着いた声。
その瞳が優しく揺れて、切なそうに微笑むから
胸がぎゅうっと締めつけられて、苦しくなる。
……遼くん、違うよ。
謝ることなんて、何ひとつとして無いんだよ。
「あのね、遼くん」
込み上げる想いを抑えるように、ニイッと笑顔を作ってみせた。
「私、ぜんっぜん平気だったよ」
「………!」
「怖くなかったの」
遼くんが驚いたように目を見開く。
まぁ、こんな砂利まみれの乱れた髪で、汚れた服を着て言うのもなんだけど
心底怒りでいっぱいだったから、嘘じゃない。