春雪 ~キミと出逢った季節 ~
第12章 春の嵐
人気者で有名な彼の情報は、沢山の噂として飛び交っていたけど
大学内に大勢いる、彼の友人達からも
本人からも
ユキの過去については、一度も聞いたことが無い。
……一緒にいると、自然に笑顔になれるほど
ユキとは、もうずっと前から知り合いみたいに感じていたけど
出逢ってから、まだ1ヶ月経っていない私は
ユキの抱えている現状を、何一つとして知らない。
「……春ちゃん」
お墓の前に、また一歩進んだユキが
振り返らないまま、静かに口を開く。
「……ごめんね」
「…………」
「黙ってて、ごめん」
ユキの視線の先には
亡くなった故人の名前が刻まれていて
……私は、完全に声を失った。
“ 加 賀 谷 桜 之 墓 ”