春雪 ~キミと出逢った季節 ~
第15章 少しだけ
すぐに離れて、私の右手をきゅっと握って
……優しく微笑んだ遼くんの顔が
滲んでボヤけて、よく見えないい。
「……遼、く……」
……まるで、私に何かを言わせないように
取り出そうとした想いを、再びしまってって諭すように
……たった3秒の、遼くんのキスが
だめだよって……そう言われたように感じた。
「……こら、泣くな。
そんなに嫌だった?」
「……っ う……」
「はは、傷つくなー」
涙が止まらない私の頭を、ぽんぽんと叩いて
遼くんは苦笑いをしながら、正門に向かって歩き始めた。
「悪かったよ春菜、もうしない」
「……ふ……っ」
「帰ったら雪斗に消毒してもらえよ。
ちゃんと、笑顔に戻してもらってくれ」
「………っ」
「……お前には、笑っててほしい」
……夕陽が沈んで、大学の街灯がぼんやりと光る。
正門まで続く、並木道
繋がれていた大きな手は
門を潜り抜けた所で、静かに離れていった。