春雪 ~キミと出逢った季節 ~
第6章 先輩と後輩
「…………」
………一瞬
世界の時間が、止まって
目に映るものは何も動かず、彩色を無くし
耳に届いていた喧騒は、瞬く間に無音となった。
………でも
それは、この場にいる私だけが感じたことであって
「全く問題ありませんよ、1日くらい」
遼くんの低い声と共に、再び視界が開けてきた。
「部長、その言葉そっくりお返しします。
かなり飲まれてますけど、大丈夫ですか?」
「ははは、うちは熟年夫婦だからな。
残念ながら、カミさんは俺にはもう興味無いよ」
「仲良しって知ってますから。
うちも負けていませんけど」
遼くんの返しに、部長は言うねぇと言って豪快に笑う。
皆も楽しそうだけど……
……あれ、おかしいな。
数分前までは、私も最高に楽しかったはずなのに
全身から、どんどん体温が下がっていくみたいだ。
「悪い、遅くなった」
「…………」
「蓮見。
席キープしてくれてサンキュ」
そう言って、イスを引いた遼くんの左手薬指
お店の照明が反射して
プラチナのマリッジリングが光った。