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暗闇で恋しましょう

第12章 1つ、また、1つ 嫌な、こと

とにかく今は、杏の姿の確認が先だ。


しっかりと玄関に体を滑らせば、見えてしまう部屋の全貌。


そんな中で、杏を見付けるのは容易くて。


部屋の隅。


体育座りをし、顔をそこに埋めていた。



「………」



俺は、この光景を知っている。


言いかせなきゃと思った途端、これだ。


あれは……


あそこにいるのは………




幼い日の、杏だ




怯えるように威嚇するように、だけど気付かれないようにひっそりと生きていた頃の、杏。


一体何故、今更。


分からないけど、見てしまったもの。


放っても置けない。


靴を脱ぎ、ゆっくりと杏に近付く。


杏が怯えない様に、杏を驚かさない様に、ゆっくり、ゆっくり。


あぁ、こんな風に杏に接するのなんていつぶりだろうか。


胸が、酷く苦しい。

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