暗闇で恋しましょう
第10章 お買い物3
.*・゚side 飛翠.*・゚
荒ぐ息を整えながら、額に浮いている汗を拭う。
館内は肌寒いくらいに涼しい。
だからって、自分は久しぶりに走った身。
汗の一つや二つ、流れるとは思えど、それにしては尋常ではない。
分かってる。これは冷や汗だ。
だって、走る足を止めた今でさえ、止まることを知らない。
“……翡翠………そろそろ、それ、買い替え時じゃ…”
「っ………」
脳に響く声も未だ、鳴り止まず。
なんで……なんであいつと被った……?
確かに、“似ている”と杏を誘拐した自覚はある。
だけど、被る事は今まで1度も無かったのに。
杏が大人になってきて、あいつに近付いてきたから?
“…………………翡翠………”
ぞっと背筋を通る冷たいもの。
今まで思い出さない様に、奥底に沈めた筈の情景。
嫌なのに無理矢理、出てこようとする。
やめろ……来るな来るな来るな……
っ……やめろ……
耳を塞ぎ、目を閉じて、また奥底へと沈める努力をする。
杏は、あいつじゃない…
杏は、杏だ……
言い聞かせつつ、肩で息をし、気持ちを落ち着かせる。