斉藤太一です
第14章 変わらない僕・変わらない君
アパートに着いてしまい
階段を上がろうとすると
隣に並ぶかすみが
ちらっと
僕を見た
先にあがるよう
かすみを促すと
かすみの唇に
ぎゅっと
チカラが入った
「どうしたの?」
「…笑わない?」
「笑わないよ」
「先にどうぞ
なんて
優しくしてもらうのも
傘をさしてもらうのも…
久しぶりなの
斉藤さん
優しすぎるよ…」
それだけ言うと
かすみは
階段を上りだし
僕は
急いで
かすみに傘をさしかけた
もちろん
僕は
びしょ濡れに
なっていた
優しくしては…
いけないんだろうか…。
部屋に入り
かすみは
コーヒーカップを
あの頃のように
洗いはじめ
「斉藤さん
着替えた方がいいよ」
と、流しに
目を落としたまま
かすみが言った
「そうだね」
そう言って
僕は風呂場に行き
ドアを閉めて
Tシャツを脱いだ
鏡には
髪まで
濡れて
なんだか
冴えない
僕が
うつっていた