エスキス アムール
第11章 デート
「…なんでもないです。
…すみません…。」
「…もしかして、
あいつ、店にきたことある…?」
「…」
私が、戸惑いながら頷くと、
そうなんだ、
と、大野さんは溜息をついた。
「お綺麗な方ですね。
…お友達ですか…?」
それで頷いてくれれば
それでよかった。
友達だよ
だけど、それだけだよって。
だけど、それを大野さんは否定した。
「いや、友達っていうか…」
彼は、
そこで一旦口を噤む。
口を噤んで、少し黙ったあと、
もう一度繰り返した。
「あの人は友達っていうか…
し……ん…っ」
友達っていうか…
の先は何?
恋人?好きな人?
そんなことは聞きたくなかった。
私は最低だ。
聞きたくないから、
こういう時だけ、
職業に頼る。
その先の言葉が聞きたくなくて
私は、
初めて
お店の外で
キスをした。