エスキス アムール
第14章 冷たい身体
「これを、どうしろと?」
「お好きなように使え、と。」
使え、かよ。
赤髪風邪野郎の仕業だな?
ここまでお見舞いに来いって事か。
「ありがとう。」
そう告げると、
走り出す。
途中でドリンクやら
何やらをたくさん買い込んだ。
着いた先は、
アパートだった。
はるかちゃんの部屋は
二階らしい。
階段を駆け上がって
部屋に向かおうとすると、
「…今日はありがとう…」
「じゃな。」
ちょうど、
はるかちゃんと赤髪風邪野郎が
出てきたのが見えた。
「あれ、大野さんじゃん?」
赤髪風邪野郎が、態とらしく言う。
はるかちゃんは、
こちらを見て驚いて
呆然としていた。
赤髪風邪野郎が、
こちらに向かって歩いて来る。
すれ違う瞬間、
「この間の、お詫びだよ。
風邪風邪!」
そう言ってニヤリと笑った。
この赤髪風邪野郎。
とは、言わない。
これで、おあいこだ。
彼の姿が見えなくなる。
アパートの二階には、
俺とはるかちゃんの
二人だけになった。
「な、なんで…大野さん…」
「風邪引いてるって訊いて…
これ、お見舞い…」
買い込んで来たものを渡すと、
はるかちゃんは受け取らずに俯く。
少し覗き込めば、
顔を背けた。
「…どうしたの?」
そんなに俺の事が嫌なのかよ。
この前まで、
そんな露骨に出さなかったじゃん。
「はる…」
「帰ってもらえませんか。」
彼女は俺を見る事なく、
床一転を見つめていた。
暗がりに吹く、
冷たい風が音を立てて
通り抜けて行った。