エスキス アムール
第16章 バーボンと、ストーカー
「社長、
こちらと、こちらに
印鑑をよろしくお願い致します。」
「えっと…ここ?」
「いえ。ここです。
あとこちらも。」
「これは、ここ?」
「…違います。ここです」
なんで、印鑑押す場所が
わからないかな。
一回、その舐めている
チュッパチャップスを置け!
「印」って書いてあると
思うんだけど
この文字が見えるのって、
もしかして俺だけなの?
忙しいっていうのに
この人は何て呑気なんだ。
イライライラ
イライラを
顔に出さないように
努める必要はない。
熊ちゃんは
「印」という文字を
探すのに必死だ。
「…では、失礼いたします」
「あ、大野!」
なんだよ!
今度は
印鑑どこに置いてある?
とか言わないよね!?
「…これは?」
勢いよく振り向くと、
そこには一枚の名刺があった。
「忙しそうにしているからね。
どうかと思ってね。」
ああ、そうですか。
お気遣いありがとうございます。
って、
俺がこんなに
せせこましく動いているのは
社長が全部を
押し付けてくるからだ。
優雅に
チュッパチャップスなんて
食べやがって。
イライラしながら
その名刺を見ると、
そこには
「ジゴレット」
と、書かれていた。
社長は、
俺が一年もの間、
ここに通いつめていたことを
知らない。