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エスキス アムール

第18章 良ちゃんの恋






私の顔は真っ赤だったと思う。

初めて
名前をちゃんと読んでくれた人が
私の名前を好きだと言ってくれている。


私はそんな大きな奇跡に、
彼の傘をギュッと握りしめた。



「…ありがとう…。」


「いーえ。気を付けてね。」


彼は微笑んで手を振った。


傘を広げて
駅から歩き出す瞬間、

私は振り返る。



「…?」

彼は不思議そうに私を見つめた。



「…また、会えるかな。」



このとき、

もう私は彼のことが
好きだったのだと思う。

いや、好きになっていたんだ。


名前を読んでくれた彼。

ずっと嫌いだった名前を
素敵だと言ってくれた彼。

そのふにゃりと笑う、

人懐っこい笑顔。



一瞬にして、心を奪われた。


「……会えるよ。きっと。」

そう言って、手をふる。
手を振り返して、背を向けると

声が聞こえた。




「おーハル、またせてごめん」

「いーよ、今きたとこだから」

「お前、傘は?」

「…失くした。入れて?」



私は微笑んで、傘を持ち直す。


すると、
ボコボコとした物に触れた。



「…あ…」


テープで、名札が貼ってある。

長い間使っていたものだから、
それがボコボコになっていた。



ゆっくり、ゆっくり、


それをなぞった。






『1ねん1くみ おおの はる』









良ちゃんの恋① 終ー




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