エスキス アムール
第19章 良ちゃんの恋2
あの折り畳み傘は、
彼が言ったとおり壊れてしまった。
あのあと、彼を見かけたことが
何度かあった。
それはやはり下校途中に訪れる。
何時ものように
電車を降りて、改札に向かう。
すると、
外のベンチで話し声が聞こえた。
そっと覗くと
傘を貸してくれた、彼。
…はる、くん。
直ぐにでも駆け寄りたかったけど
その隣には友達がいた。
結構いかつい顔をしている。
多分睨まれたら
ひとたまりもないだろう。
そのいかつい彼は
私のことを知らないし、
傘の彼も、私のことを
忘れてしまっているかもしれない。
そう思って、声をかけることができなかった。
何より、私はあの時、
黒くて少し長い前髪に、メガネ。
こんな地味な状態で、
彼の前に行くことができなかったのだ。
こんな私はみっともないって思っていた。
彼に、変だと思われたくなかった。
声をかけられず、
そっと、耳を傾けていると
会話が聞き取れた。
「なー、ハルは進路どーすんの?
もうあそこも出てかなきゃいけないだろ?」
「んー、18までだからね。
俺は大学にいくよ。そんで、社長になる。」
「まぁ、奨学金もあるしな。」
「おう。世の中さ、
ちゃんと考えてくれてんだよ。」
「どこ大?」
「んー、まだ、皆には内緒な。
行きたいのは、東大。
カナメもさ、一緒にいこーぜ。」
「東大にー?
まぁ…お前がいくなら、
チャレンジすっか。」
「決まりな。いけるよ。
全国模試の1位と2位なんだから」
そう言ってはしゃぐ彼らを見て、
私とは違う、かけ離れた
遠くの存在なんだと認識させられた。