エスキス アムール
第2章 オオノさん
大野さんは、
私とスるとき、『はるかちゃん』と、本名では呼んでくれない。
話しているとき、
どんなに
『はるかちゃん』と呼んでも、
行為に及ぶときになると、
必ず源氏名で呼ぶのだ。
それは、
此処に大野さんが通っている理由を表すものであり、
私が縛り付けている証だ。
呼ばれる度、
俺とお前は
お客と風俗嬢なんだと、
言われているようで切なかった。
哀しかった。
一生、
私たちの関係が
今の形から変わることはないのだと。
そして、
少しでも
こちらが気持ちを出してしまえば、
大野さんは来てくれなくなるのではないか。
そうなれば、
私と大野さんの繋がりは一切なくなる。
どちらかが居なくなれば
関係は解消されてしまう、
所詮は薄っぺらい関係なのだ。
源氏名を呼ばれる度、
そんな現実を見せられているようで、
嫌になった。
「…抱きしめてもいい?」
行為が終わると、大野さんはそう言って私を抱きしめた。
胸に顔をうずめると、大野さんの匂いがして、とても落ち着く。
「ふふ…くすぐったい」
そうして二人で抱き合っていると、
また眠気が襲ってくる。
大野さんが来る前も
眠っていたというのに、
今日は一体どうしたのだろう。
またウトウトしはじめて、
大野さんの手が
私の頭をゆっくりと撫でる度、
私は夢の中に引き込まれて行った。
夢の中で、
私は彼と初めてあった時のことを思い出していた。