エスキス アムール
第20章 彼女との時間
「そっか…。」
もう高校生の頃の話だけどね。
そう付け加える俺に、
目の前の彼女は
目に涙を浮かべ、笑う。
「どうして素敵だって思うの…?
この漢字。」
そう言って彼女は
自分の社員証を見せた。
「「良」っていう字ってね、
良い事ずくめの字なんだよ。
うつくしいとか、
賢いとか。
それに加えて、俺の恩人がさ
リョウコって名前で、
二つの意味で素敵だなって」
「……そう」
彼女は微笑むと
珈琲を飲み干した。
そうして瞬きをすると、
涙がその目から溢れる。
「ありがとう。
好きになってよかった。
波留くんのこと…」
彼女はそう言うと
振り向く事なく出て行った。
その後ろ姿が、
傘の彼女と重なる。
……まさか…。
…まさかな、
そんなわけないよな。