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エスキス アムール

第20章 彼女との時間








「……」




彼女は俺の目を見て

じっと、聞いていた。




しばらく沈黙が流れる。




彼女は、
目の前にある珈琲を啜り
こちらを見据えた。



「そう。
私はずっと、
あなたのことが好きだった。



……ずっと…。」


「…ありがとう。

ずっと、好きでいてくれて…。」


その言葉を聞いて
彼女は微笑んだ。



その瞳が

何処と無く、
昔傘をあげた女の子に
似ている気がした。


あのこの名字なんだったかな…。

もうずいぶん昔だ。


高校生くらいだろうか。


「……その子、
どんな子だった…?」


「え?」


「その傘を貸した子…。」


「ああ。

土砂降りの中さ
傘がなくて困っててさ。

可哀想で、
俺の汚い折り畳み傘を
あげたんだよ。

あげるって言ったら、
フワッて微笑んでさ。

頬がピンク色で、
メガネかけてて、
髪は黒くて綺麗で、

素朴で、可愛かったな…。」


「……。」


「また会いたいなって思って
探してたんだけど、
もう駅で見かけることもなかった。」


「……」


また会える?
彼女は最後にそう訊いた。

きっと会えるよ。

そう言ったのだけれど、


駅で彼女を見かけることも、
それ以来なかった。


引っ越ししたのかなとか、
学校名を聞いておけば良かったって思ったけど

受験やら何やらで、
バタバタしているうちに

思い出として
しまいこまれてしまっていた。








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