エスキス アムール
第21章 彼女との生活
それを見て、決心をする。
今だ。
今なら、呼べる。
「あ、あの…っ、
波留、さん…っ」
「…!」
彼は驚いた顔をして、私を見た。
少しだけ彼をみれば、
その顔は
とても嬉しそうにしている。
「もう一回呼んで?」
「……波留さん」
「もう一回。」
そう言って近づいてくる、
彼の顔。
「…波留さん…」
「もっかい。」
だんだん、だんだん、
「波留さん」
「…さん、とったら?」
彼の息が顔にかかる。
ドキドキドキドキ、
心臓はバクバクだ。
「……波留……っん…、」
私が初めて彼の名前を呼ぶとき、
彼の唇が、私の唇に
そっと重なった。
それは、彼が初めて
私のお店にきて
身体を重ねたときにくれた
あのキスよりも、
ずっとずっと、
優しい優しいキスだった。
こんな幸せを私は知らなかった。
初めて、知った。
幸せすぎて、わからなかった。
気がつかなかった。
このキスを見ている人がいて、
その人がどんなことを企んでいるのか。
これから待ち受けている、
残酷な運命を。