エスキス アムール
第23章 別離と別離と別離
力無く、そこに座り込んだ。
最後の最後に、
手紙には
指輪は処分してください。
そう書かれていた。
指輪をして
キラキラとした
表情を浮かべた彼女が
目に浮かぶ。
それは、もう過去で
もう思い出なのだ。
あの笑顔も
好きだといったことも
全部嘘だったのだろうか。
彼女も
こうなることを知っていた…?
だから、最近、
あんな態度だったのか。
何と無く辻褄があって
おかしくなる。
バカみたいだ。
自分が築き上げてきたものは、
なにもかも、
虚偽のものに過ぎなかったのか。
捨てられた彼女が描いた
自分の顔をみたら、
彼女にもう関わらないでくれ。
そう言われているようで。
今彼女を追いかければ、
マスコミの標的になっている俺は
彼女に迷惑をかけるだろう。
俺はやっていない。
何もしていないのに。
マスコミに報道されただけで、
世間だけで無く、
近くにいたはずの
恋人まで信じてしまうなんて。
15年ずっと一緒にいる
親友だって、
あんな紙切れ一枚を信じて
聞かないのだ。
俺はそんなにも、
薄っぺらい人間だったのか
と、気がつく。
俺の今までの28年間は
何だったんだ。
また、独りだ。
また、あの頃に、小さい頃に
逆戻りじゃないか。
一生懸命大事にしてきたものが
こんなに一瞬で消えてしまう。
掴んでも掴んでも
指の隙間から
落ちていってしまう。
なんて無駄な時間だったんだ。
哀しみを通り越して、
笑いがこみ上げてくる。
こんな世界、やってられない。
どうして、大切な人は皆、
自分の元から消えてしまうのだろうか。
その虚しい自分の笑い声は
誰もいない暗闇の中へと
音もなく
吸い込まれていった。
第二章-終