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エスキス アムール

第24章 逃亡日記





どのくらい
そうしていたかわからない。
彼の優しい手のひらの感触に
酔いしれていた俺は

ハッと我に返り


「やめろ、はなせ…っ」


口先では
そういったものの、
抵抗なんて、弱々しいもので。

俺は、木更津に
そっと、身を預けた。



背中に回る
木更津の腕に

より強く力がこもる。


それがとても温かくて。

その温かさが、
ぽっかり空いた心の隙間を
埋めてくれる気がした。




「…波留くん、
抵抗しないの…?」


木更津が、
からかうようにではなく、
真剣な声色で聞いてくるものだから

その言葉に恥ずかしくなって
木更津の肩にかおを埋め、

ギュッと彼の腕を握った。


だんだんと、
彼の温もりのお陰か
涙はとまっている。




「…波留くんって…
本当に悪魔だよね」



そんな声が耳のそばで聞こえて
彼の息が耳にかかる、


彼が俺の耳にキスを落とすと、

身体がビクッと震えた。



「波留くん、誘ってるの?」


「そんなわけないだろ…!」



流石にそこは全力で否定する。

その勢いで、誤魔化すように

木更津から
大きく離れて腕を振り払った。


「波留くん…」

「なんだよ」

「大丈夫?」


「…」

「じゃ、なさそうだね」


彼は離れた距離を埋めるかのように、

一歩、
また一歩と近づいてくる。


俺は
それに合わせて
一歩ずつ下がるわけだけど、

限界がきた。


壁。


ならば横だとずれようとすると、
それを彼の手が邪魔をした。



ドンッ



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