エスキス アムール
第28章 バレンタインデイ キッス
「…っ」
何故だか、
僕の頬をなにかが伝った。
その、頬を伝うモノに彼の指が触れる。
なんで、涙が出るんだ。
優しくするな。
お願いだから、これ以上は。
涙に濡れた
顔をあげると
唇に伝わる、柔らかい感触。
思わず、彼を見つめると、
優しい瞳で笑って、僕の涙を拭っていた。
そして、また、彼の顔が近づく。
絡んでいる彼の足は、
より力がこもった。
「や、やめ…っ」
そんな抵抗も虚しく、
彼の手によって阻まれ
また吸い付くように唇が近づく。
触れては離れ
離れては触れ。
何度も何度もそれを繰り返して、
抵抗もしなくなると
彼は僕から離れた。
「なんで…、こんなこと…っ」
その言葉に彼は答えることなく
僕に手を伸ばして抱き寄せる。
彼の吐息が耳にかかった。
もう、この男を前にして
距離を置こうなんて
手を出さないなんて
無理なのかもしれない。
きっと、そばにいる限り
この男は僕を手放してなんてくれないんだ。
傷ついたっていい。
この男に傷つけられるなら。
それでも。
堕ちるところまで堕ちてやる。
諦めて、彼の背中に腕を回す。
胸に頭をうずめて目を瞑ると、
瞼に柔らかい感触が
落ちて来た気がした。