エスキス アムール
第34章 彼の選択
「……あ、イク……!」
僕が果てるのと同時に彼は意識を手放した。
後ろの蕾は真っ赤で、
押さえつけた手首もさらに傷ついていた。
涙は顔にこびり付き、その顔は恐怖におののいている。彼をそっと抱きしめて、彼の涙を拭った。
「ごめん…、ごめん…っ」
だけど、キミが無理をして
僕の傍にいるのは耐えられない。
波留くんには、
一緒にいて一番幸せな人と居て欲しいんだ。
彼の傷ついた手首に薬を塗って包帯で巻き、
彼の身体を拭くと、服を着させて頬に触れるだけのキスをした。
「おやすみ、波留くん」
最後のおやすみのキスをして。
机の上に一枚の紙をおく。
これを彼がみれば、本当にもう、最後だ。
僕のところに来ることはない。
もう、彼には会えない。
これでいい。これで、いいんだ。
これで、いいと思っているはずなのに、
目からは涙がこぼれる。
とまらない。
彼を手放したくない。
好きだ。彼が好きだ。
こんなに人を愛したのは初めてだった。
僕だったら彼女みたいに彼を捨てたりしないのに。
僕の嗚咽だけが、部屋に響いた。
だけど、それでも彼は彼女に会いたいと、
切に願っている。
それが彼の答えだ。
さよなら、波留くん。
僕は幸せだった。
僕のことを恨んで、
何の迷いもなく彼女を追いかければいい。
部屋はとても静かだった。
彼は死んだようにピクリとも動かず眠っている。
もう一度額にキスを落として彼に別れを告げる。
ニューヨークに行けばきっと楽になれる。
タクシーを呼ぶと、空港に向かった。