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エスキス アムール

第34章 彼の選択

【波留side】



目が覚めたとき、そこには誰もいなかった。
少し起き上がろうとすると、身体に激痛が走る。

手首をみると包帯が巻かれていて、
身体は綺麗に拭かれていた。
手首を縛られたとき、恐怖を感じた。
昔あったレイプ未遂を思い出したのだ。
ひたすら痛みと戦っていたことしか覚えていない。


「…木更津…?」

ベッドからリビングに呼びかけても、誰も反応しない。まるで、彼女がいなくなった、あの日のようだった。
いつもだったら何かの用事だと思うのに、この日は家の静けさが異様に感じた。



「木更津!木更津!」

痛みなんか忘れて必死に探す。
部屋の何処を見ても誰もいない。

リビングの机の上には一枚の紙が置かれていた。



見たくない。


「いやだ…、木更津…っ」



そっとそれに手を伸ばす。
ゆっくり紙を開く。



『お前なんて彼女のところにいけばいい』

それを見て、昨日の行為中に
彼が言ったことを思い出した。
何故俺が彼女を探しているのを知っていたのか驚き、勘違いだと否定しようとしたが、声が出なかった。


彼は全部知っていたのだ。
俺が彼女を探していることも。
なにもかも。

それで、自分から気持ちが離れて行っていると思って、あんなことをした。
俺が心置きなく彼女の元にいけるように、昨日は酷くしたのだ。

なんてバカなやつなんだ。




その紙には、
このマンションは好きなだけ使っていいから。
と言う言葉と共に、


彼女の居場所が書かれていた。











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