エスキス アムール
第35章 彼と彼と彼女
「まあ、そうなんだけどさ…」
「俺が偉そうに言えないけど。
はるかちゃんのことずっと好きだったんだしさ。
その新しい好きな子はまだ日が浅いだろ?
はるかちゃん迎えに行ってやれよ」
彼はその好きな子が男だとは思っていないだろう。
ましてやもう、キス以上のことしているなんて思いもしないはずだ。
要は、そんな浅い付き合いをしている子を好きだなんて言うのは、気の迷いだと言いたいのだ。
要は昔から、好きな人をコロコロと変える人を好まなかった。
だから俺にも遠回しに
道が外れているから元に戻せと言いたいのだろう。
余計なお世話だ。こんなときだけ。
そんなことを心の中で思ったが
ああ、最低だと直ぐに思い直す。
小さい人間だ。
期間なんて関係ない。
そんなものは人間関係の厚さに比例しない。
だって現に要は…。
目の前にいる要のことを見つめる。
いいよ。とかいって、きっとまだ俺は根に持っていたみたいだ。
どんどん自分が醜く感じる。
顔に出ていないか不安になってどうしようもなくポケットに手を突っ込んだ。
そうすると一枚の紙の感触。
木更津の顔とはるかちゃんの顔が浮かんで苦しくなった。
気分が悪い。
酒飲みすぎたかもしれない。
「おい波留?」
「ごめん、俺帰るわ」
要から逃げるように席を立った。
外に出て冷たい風を受けて少し落ち着く。
火照った身体には心地良かった。
携帯を取り出して、彼の電話に繋いでみる。
声が聞きたくなった。
身体も心も疲れ切っていた。
けれど、電話を繋いでも
返って来たのはやはり、
無機質なアナウンスだけだった。