エスキス アムール
第35章 彼と彼と彼女
だいぶ気分も良くなって、夜の街を歩いた。
アルコールが入って、気分は高揚している。
だけど、帰るのはあの真っ暗な部屋だ。
誰も待っていないのだと思うと心が寂しく感じた。
夜の街のネオンがチカチカして生ぬるい空気が頬をかすめる。
久しぶりに公園に行って夜空を見た。
冬のようにはいかないが、
空雲が無く、よく星が見えた。
彼女と関わるきっかけになった、星。
今でも彼女は空を見上げるのだろうか。
煌めく星たちを見上げながら、
いろんな人たちの顔が浮かんでは消え、
消えては浮かんでを繰り返す。
ちゃんと飯食ってるかな。
眠れてるかな。
もう一度、彼がくれた紙に手を伸ばした。
彼の綺麗な字で、細かく書かれたその情報。
彼が真剣に調べてくれたことが伺えた。
これが、彼が望むことなのだろうか。
確かに彼女を探していたけど、あまり気が進まなかった。
けれど彼がしてくれたことを、
簡単に蹴っていいのだろうかとも思う。
ここまでしてくれたのだから、
彼女に会いにいくべきか。
『はるかちゃんに会いに行ってやれよ』
要の先ほどの言葉が浮かんだ。
行ってやれというけど、
まるで彼女がまだ俺に好意を寄せているような言い方だ。
要は何を勘違いしているのだろうか。
久しぶりに、彼女との記憶を思い出した。
デートに初めて行った時のこと
初めて身体を重ねたときのこと
初めて彼女の絵を見た時のこと
どれも楽しく、
自分の心を癒してくれるものだった。
彼女に触れた感触、匂い、涙、声、顔、
全てが一瞬にして蘇ってくる。
あの時の感覚を思い出した。
彼女のことが好きだったあの頃を
その感覚がどうしようもなく胸を苦しくさせる。
会いたい。
夜空を見ながら、思わず手を伸ばす。
だけどその手は空中を掻いただけで、
何にも触れることはなかった。