エスキス アムール
第36章 ファースト キッス
お願いしますって言われても…
ファーストキスってお願いして奪ってもらうものだっただろうか。
彼女を見つめながらどうしたものかと
戸惑っていると、
彼女は閃いた顔をして
「お願い!
お金ならいくらでも払うから」
と、金で解決をしようとする。
「金かよ!」
やめろ。
こんな時に金を出してくるのは。
聞いたことねーよ。
ファーストキスを金で買うなんて。
もっと夢があるものなんじゃないの?
「いや、でも…なあ」
「お願い!!お願いします!!」
彼女は跪いて土下座を始めた。
おいおい、どんな図だよ。今の状況。
彼女を急いで立たせる。
彼女の必死な瞳に、目がそらせなかった。
ファーストキス奪えるようないい男でもないんだけどな。
悩んでいる間も、ジリジリと無言の圧力をかけてくる彼女に根負けした。
「……わかった。わかったけど!
…だけど、いいの?本当に?」
その声に彼女はバッと顔をあげると
大きく頷いた。
そして、お幾らですかと聞く。
やめろ。
金をだしてくるのは。
「お金なんていらないから。」
そう言うと、彼女はすぐに、
すっと、瞼を静かに閉じた。
こんな状況、
一生に一回とない、
意味のわからない状況だ。
こんなこと、したことない。
何か変に緊張した。
彼女の頬に手を添えると、
肩がビクリと揺れる。
キスを待つ、
彼女の顔はとても綺麗だった。
「……」
そうして、顔を近づけて
15cm
10cm
5cm
鼻が触れる
息がかかる。
「……ん…」
彼女に触れるだけのキスをした。
そっと離して近くで見つめ合えば、
彼女は顔を赤らめる。
冥土の土産ができた。
と、小さくハニカミながらつぶやく彼女は、
とても可愛らしかった。
死んでもらったら困るけど。