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エスキス アムール

第36章 ファースト キッス




花は弱く、無邪気だ。
できるだけ心配のないようにしている。
棘を自分の恐ろしい武器だと思っている。


彼女を見送りながら、
幾度となく読んだ星の王子様のフレーズが何度も何度も繰り返された。


だから、可愛く愛しく思うんだろうな。
棘を持っていても、その花を。



……敵に回したらこわいけど。



「社長の居場所がわかったら教えてね」


最後に彼女はそう言った。
秘書の仕事も大変なものだと思う。



明日あそこに行こう。

どうせ暇なのだろう。
いつも電気がついていないそこは、
いつもやっているのかと疑問に思いながら通り過ぎている場所だった。

もう答えは出た。



あと二ヶ月。
そうしたら、ニューヨークにいこう。

彼がくれた彼女の住所はポケットの中に入っていた。

それを取り出して眺める。
元気にしてるかな。


彼女の笑顔が浮かんだ。



空をみると、
晴れた夜空にはたくさんの星が煌めいていた。
ひとつ、流れ星を見つける。


一瞬のそれにお願いごとなんて言えるわけがないと思った。
誰に頼らなくても良い。
もう、答えは決まった。

会いに行こう。



夜空にまたたく星の中に
ひとつ、輝く三日月。

夜を照らすひとつの光をみて、
ニューヨークの月は今どんな形をしているのか気になった。


満月より三日月。
何かが欠けている方が美しく思う。
いつかの偉人が言った言葉だ。

人間もそれで良いのだと思う。
完璧な人間なんていない。
失敗やミスは誰にだってあるのだ。

欠けていていい。
それを二人で補えばいいのだ。


何を迷っていたのだろう。
最初から答えは決まっていた。



欠けた月を見ながら、
向こうにいるあの人を想った。


あと二ヶ月、頑張るから。
どうか、俺を受け入れてくれ。

さっきの流れ星へのお願いはもう遅いだろうか。
苦笑しながら空を見続けると、




またキラリ、星が流れた気がした。








第三章ー終

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