エスキス アムール
第5章 苦い体験
「なんで?いいよ。
いつも通りとって。」
強がって言う。
だけど、
正直、誰かの相手をできる状態じゃない。
もし行為に及んだら、
突き飛ばしてしまうかもしれない。
だけど、
ここで断ったら怖くて一生誰の相手も出来なくなる。
シャワールームに入って
お湯を浴びる。
傷口にお湯が染みたけど、
さっきのものが流せるのならそれで良かった。
何度も何度も洗った。
記憶を消すように洗う。
手の震えは止まらない。
勢いよく息を吸い込んで吐き出す。
30分くらいだろうか。
そうしていると
大分落ち着いて、
手の震えは止まった。
怖くない。
怖くない。
そう言い聞かせる。
髪の毛を乾かして、次の服を探した。
なるべく傷が見えないもの。
肘まで袖のあるものを見つけたけど、やはり手首と首は隠せなかった。
仕方ない。
ここにくるのは変態の集まりだ。
こんな跡で
どうせ興奮するんだろう。
もう一度深呼吸をする。
大丈夫。
いつも通りだ。
いつも通り。
そうして目を開けると、
それと同時に指名が入った。
次は
どんな要求がくるのか。
それは
考えないようにした。
無理だったら、
今日は土下座して断れば良い。
一度笑顔を作って見る。
大丈夫だ。バレない。
「お待たせして
申し訳ありません。」
いつも通り、扉を開けた。