エスキス アムール
第48章 ただいまとおかえり
「もしもし?」
『もしもし…木更津…?』
空港に向かったとき、波留くんから電話がかかってきた。
「どうしたの?」
『…もう…帰ってくるかなと思って…』
「うん、これから飛行機に乗るところだよ」
『本当?!』
電話の向こうから嬉しそうな声がして、顔が綻ぶ。
同じ人間なのに、あれだけ僕を不快にさせる人間と、これだけ僕を癒してくれる人間の違いに驚く。
付き合う前、僕がニューヨークに出張に行ったときは、ずっと僕から電話をしていた。
だけど今は、こうしてまだ2日と経っていないのに電話をかけてくる波留くんに、早く会って抱きしめたい衝動にかられる。
彼は日頃は隠しているけど、思っているよりもずっと甘えん坊だ。
そんな姿を僕しか知らないのだと思うと、どうしようもない優越感が湧き上がってくる。
今の時刻は16時。
ニューヨークの時刻は朝の5時だ。
普通なら寝ている時間にわざわざかけてくるというのもたまらなく可愛い。
女も男も関係ない。
人間の中で一番彼を愛している。
どうしようもなく。
今更他の誰を持ってこられたって、誰かを好きになるのは無理だ。
こんなにも愛しく思う相手がいない父親を、可哀想に思わないこともない。
まあ、もう僕には関係のないことだけど。
早く波留くんに会いたくなった。
波留くんの電話を切ると、飛行機に乗り込んだ。