エスキス アムール
第48章 ただいまとおかえり
「相手は誰だ。
どうして今日その人を連れてこなかった。」
「向こうにも仕事がありますので。
急には動けませんよ。」
「…女、なんだろうな。」
「いいえ、男性です」
「…っ、光平…っ!」
父親は青褪めて、立ち上がった。
お前というやつは…と、右往左往しながら落ち着かない様子だ。
そんな様子を見て、つい笑いそうになってしまう。
馬鹿らしい。
そんなに慌てて。滑稽だ。
逆鱗に触れないように、ポーカーフェイスを決め込んだ。
「お前はいつになったら女に興味を持つんだ!!」
「いつになっても無理です。
もう僕には決まった人がいます。
だから、諦めてください。
…結婚も、子供も。」
「孫の顔が見たいと思う親の気持ちが、お前にはわからないのか!!」
本当に面倒臭いなあ。
本当に心から孫の顔が見たいと思ってくれているなら、少しばかりは心が痛むかもしれないけど、この人に限ってそんなことはありえない。
「父さんは僕の子供の顔が見たいのではなく、後継の顔が見たいだけでしょう。」
「…っ」
「例え子供が生まれたとしても、父さんの後継にはしません。
生まれた時から、やることが決まっている人生なんてつまらない。
人生は自分で作り出すことに意味があるんだ。」
「お前、偉そうに…」
「もっとも、あなた方みたいな金が命の政治家の方々には、わからないでしょうがね。」
何も言えずに口をパクパクさせている父親を尻目に、「今後一切、見合いの話を持ってこないでください」というと、部屋から出て時計を見た。
よし。予定通り。
間に合いそうだ。