エスキス アムール
第55章 オムライス
「あの……その……っ」
緊張しておかえりのひとつも言えなくて。
顔は強張っているから最悪だ。
もしかしたら、木更津によい印象を与えないかもしれない。
木更津はそのせいか、俺の姿を見るなり複雑そうな顔をした。
だけど、複雑そうな顔をしたまま、なにも言わない。
お互い沈黙が続いて、しばらくした頃、気が付いた。
時計つけ忘れた。
さっき掃除したときに、水に濡れてしまうからと思って外して、リビングの机の上に置いてきたままだ。
とりにいかなきゃ。
話よりも時計が先だ。
時計をしてないと。
そう思って、木更津から離れてリビングに急いで向かおうとしたとき、
「……わ、」
腕をグッと掴まれて、気が付いたら木更津の腕の中にいた。