エスキス アムール
第8章 チケット
要のこういう所も好きだ。
学生の頃から、
こうなりたいだの
ああなりたいだの、
夢を語る俺の話を、
バカにしたりせずに、
楽しそうに聴いてくれた。
今仕事が出来ているのも、
この役職につけているのも、
彼のおかげだと言っても
過言ではない。
要は、優しい顔をしながら
「……っとに、
お前ってせっかく
綺麗な顔してんのにさー、
仕事しかできねーな!」
そういった。
「……おい。
さっきから、
失礼にも程があるぞ。
この野郎!
俺のテクニックは…」
「そういえばさ、
あんま良く無いこと聞いちゃったんだけど…」
無視かよ!!!
無視に無視を兼ねて、
要はより声を潜めた。
「木更津製薬の秘書、
"あいつ"
らしいよ」
「…あいつ?」
「三嶋良子」
………
「…まじか。
今日、そこと接待あるんすけど」
「…まじか。
…えらいことにならなきゃいいけどな。」
「穏やかじゃねーな。」
「とりあえず、目合わせんな。」
穏やかじゃない。
この予想は、やっぱり
後々当たることになる。
木更津製薬と共同開発なんて、進めるべきじゃなかったんだ。