エスキス アムール
第8章 チケット
「…とにかく、
美術展にいって、デートしろ。
まずはそれからだ。」
「はあああ」
要の言葉に力なく頷く。
もうすぐで、
昼休みが終わろうとしていた。
残った水を
飲み干したところで、
要が「そういえば」と
声を潜めた。
「今度さ、
うちの会社
木更津製薬と共同開発進めるって聞いたけど本当?」
「あぁ、みたいだよ。
木更津製薬も
今成長途中で勢いあるしさ、
こっちにもあっちにも
メリットはあるってさ、」
「波留はどう思ってんの?」
「まぁ、
いいんじゃないの?
マイナスになる事は
ないと思うし。
まぁ、
俺がどんなに動いたって
最後に決めるのは
社長と会長と…、
上の御一行様たちだよ。」
要の皿と自分のを重ねてまとめると、
ため息をつく。
「あと、
波留が社長になりそうって
噂、聞いたんだけどさ。」
「はぁ?無い無い。
あの社長が
俺に座を譲ると思うか?
次期社長は社長の息子だよ。
だから今息子、
まず副社長修行やってるんだから。」
「……波留はなる気無いの?」
「俺がなれたら
どれだけ楽だろうって思う事は
沢山あるよ。
副ってそういう役柄だしさ。
でも、観月製薬でなるつもりは無いな。
俺さ、自分の会社、作りたいんだよね。」
勝手に喋る俺の話に、
要は楽しそうにじっと耳を傾けていた。