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Gentle rain

第6章 求めあう気持ち

その時、兄さんの携帯が鳴った。

「階堂?珍しいな。こんな時間に架けてくるなんて。」


階堂さん?

箸を持つ手が止まった。


「美雨?ああ、元気だよ。替わろうか?」

兄さんが携帯を差し出そうとする。


ダメ。

絶対に出れない。

でもその焦りは、すぐに必要なくなった。


「替わらなくてもいい?そうか?」

兄さんは携帯を耳元に戻した。

よかった。

階堂さんと話さなくて。

もし今、階堂さんの声を聞いたら、兄さんの前で泣き崩れてしまうもの。



あの日。

階堂さんの元を訪れた時。


アルバイト先のレジの金額が合わなくて、少しだけ時間を押してしまった。

それでも行きたかった。


『美雨ちゃんが来るまで、俺、待っているから。』

そう私に言ってくれた階堂さん。

もしかしたら、もしかしたら……

私たちはお互いを必要としているのかもしれない。

そんな気持ちが、私の心をどこまでも、逸らせた。

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