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Gentle rain

第8章 優しい雨

コツコツと、歩く音だけが響く。

さっき会った敦弥さん。

私の知らない人だった。

服はヨレヨレで、髭も生やしっぱなしで、少しやつれているようにも見えた。


「敦弥さん……」

私は涙を堪えるかのように、空を見上げた。

その先には、さっきまで敦弥さんと会っていた、あの社長室が見える。


敦弥さん。

もう、苦しまないでほしい。

敦弥さんにはもっと、楽しく生き生きとしながら、今の仕事をしてほしい。

自分の身を削りながら、やつれる程追い込まれて仕事をするなんて、敦弥さんには似合わない。


そうよ。

私には、今のあなたを救う力なんてない。

もし、菜摘さんと結婚することで、また仕事に生き生きしている敦弥さんを見れるのなら、私はこのままサヨナラを言える。



傷ついた心を潤すかのように、次から次へと涙がこぼれる。

もし、菜摘さんと敦弥さんの出会いが、最初から決まっているものだとしたら、私はなぜ敦弥さんと出会ってしまったんだろう。

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