テキストサイズ

Gentle rain

第8章 優しい雨

「すみません。」

通りすがりの人にぶつかられて、私は道路に倒れ込んでしまった。

「大丈夫ですか?風邪ひきますよ?」

いつの間にか降り出した雨に、私はすっかりびしょ濡れになっていた。

「……大丈夫です。放っておいてください。」

傘を差したその人は、しばらく私を見ていたけれど、一向に動かないことに諦めたのか、そのまま私から離れて行った。





夢だったのかもしれない。

私と敦弥さんが過ごした時間、全てが夢だったのかもしれない。

菜摘さんは、森川社長のお嬢様。

だとしたら、私と敦弥さんが付き合う前に、私がプレゼントを用意した人が、そうだわ。

最初から二人は、結婚するはずだったのよ。

敦弥さんは、たまたま物珍しい女を見つけただけ。

私たちは、結ばれる運命じゃなかった。




「……っ!」

雨に混じって、涙も地面に降り続く。

一時の恋だと言い聞かせれば、納得もできるのに心がそれを受け付けない。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ