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Gentle rain

第9章 雨あがり

「そう仰って頂けて、嬉しいです。」

俺の言葉に、そのご夫婦も満足そうな笑みを浮かべてくれた。

「階堂さんの家も、さぞかしホッとするようなお家なんでしょうね。」

奥さんが親しげにそう言ってきた。

「いえ。しがない一人暮らしですから。寂しいものですよ。」

「あら。ご結婚されていないの?」

「ええ。まだ独身です。」

「そんないい歳して独身とはな。いいなぁと思う人はいなかったのか?」

夫婦揃って、心配そうに俺を見ている。

まるで遠くに住む親戚のようだ。

「いました。とびっきりいいなぁと思う人がね。でも振られてしまいました。」

「まあ。お気の毒に。」

奥さんのそのセリフに、会社の同僚からクスクス笑い声が聞こえてくる。

そんな事にも、最近は慣れてきた。

俺の客になる人は大抵、俺が独身だと聞くと、同じセリフを言うからだ。

「では、2、3日のうちに見積書を持って、お伺いします。」

「ああ、頼むよ。」

俺は会社の出口まで、そのご夫婦を見送った。

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