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Gentle rain

第9章 雨あがり

菜摘さんに導かれるように、また会社のビルに入り、エレベータに乗って、部屋に戻った。

さっきまで真剣に向き合っていた書類が、今はただの紙切れに見えた。


俺は一体、何をしてたんだろう。

寝る間も惜しんで。

次々と会社を離れて行く部下達を見ながら、がむしゃらに働いて。

資金が無くなれば、下げたくもない奴らにも頭を下げて。

誰に何を言われても、頑張れたのは美雨のおかげだったと言うのに。


「はははっ…今の俺を見たくない?」


チラッと棚のガラスに映った自分を見ると、むさ苦しいオヤジが、一人そこにいた。

「本当だ。誰がこんな男、相手にするんだよ。」

ヨレヨレのシャツで、目から溢れそうになる涙を拭った。


その時、後ろから誰かに抱き締められた。

「階堂さん。私がいるわよ。」

菜摘さんだった。

「私があなたの傍にいるわ。」

彼女の体は震えていた。


どうして君は、震えてる?

いつもなら聞くこともできるのに、その時はそんな気力もなかった。

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